autovj の曲認識ログから再構成した、この夜のセットリストとレビュー。16:00 open / 認識レンジ 16:12 – 21:02
Fishmans で扉を開ける
1曲目が鳴り出したのは開場の12分後。『空中キャンプ』から「IN THE FLIGHT」「MAGIC LOVE」と2曲続けて、まだ人がまばらな時間を満たしている。この日のどの枠にも属さない8分間だが、5時間ぶんの温度をここで宣言してしまっているのが面白い。
40分6曲。長尺で場所をつくるオープナー
定刻ぴったり、マッシヴ・アタック「Teardrop」で開始。エリザベス・フレイザー(コクトー・ツインズ)の声を最初の一手に選ぶことで、直前の Fishmans のダブとブリストルのトリップホップが同じ水脈にあることが、言葉なしで繋がってしまう。
40分でわずか6曲、1曲あたり6分以上という配分がこの枠の性格そのもの。Mogwai「Coolverine」で歌のない長尺を置いて会話の余白を作り、ジェネイ・アイコ「Jukai(樹海)」——日系のルーツを持つ彼女が日本語の表題をつけた曲——で視線を日本側へ引き戻す。
締めはビリー・アイリッシュ「SKINNY」、オリヴィア・ロドリゴ「drivers license」と現行ポップの静かな面を通してから、シニード・オコナー。「Nothing Compares 2 U」ではなく『Universal Mother』の「Thank You for Hearing Me」を、まだ明るい17時前に置く。有名曲ではなく祈りに近い長尺を選べるのは、開場直後を任される人の判断。名前のとおり、夕陽の時間を預かる枠だった。
洋から邦へ、40分で渡りきる
Sade「Love Is Stronger Than Pride」→ 今井美樹「夏をかさねて」→ Isabelle Antena「Seaside Weekend」。80年代の洗練を英国・日本・ベルギーの三方向から並べる出だしで、この3曲が並んだ時点で枠のテーマが提示されている。
Cleo Sol「Promises」で現行UKソウルに接続してから、Nujabes「Kumomi」、満島ひかり & cero「踊るノアール」、haruka nakamura と、日本のジャズ/シティ/アンビエントを一気に通す。洋楽で始めて邦楽で終える40分の移動が、無理のない足取りで完結している。
締めの2曲がとくに良い。堀込泰行によるキリンジ「エイリアンズ」のセルフカバー(Lovers Version)——原曲ではなく本人の再演を選ぶ返し方——から、Sweet William × 青葉市子「からかひ」へ。音数を絞りきった状態で次の枠に手渡していて、バトンの置き方が丁寧。
この日いちばんの振れ幅、確信犯の40分
Café del Mar のヴェルディ「椿姫」前奏曲——イビサのチルアウト史そのもの——で始めておいて、次がフェネス『Endless Summer』。グリッチ/エレクトロアコースティックの金字塔をフロアに落とすのは相当な勇気で、しかもタイトルが夏。ここで耳を一度「実験」側へ振り切っている。
そのうえでデーモン・アルバーンを経由し、DEEN「君がいない夏」で90年代J-POPのど真ん中へ急降下させる。この落差こそがこの枠の設計で、直前に Fennesz を通してあるからこそ DEEN が違って聴こえる、という順番になっている。
フランク・ザッパ「Find Her Finer」(『Zoot Allures』1976)、フーバスタンクと続けたあと、コンスタンティノープル & アブライエ・シソコ——ペルシャ古楽とセネガルのコラの共演——で地図を一気に広げ、ナラ・シネフロ「Space 1」で現行UKスピリチュアルジャズに着地。1976年から2021年、日本・欧州・西アフリカまで飛ぶのに散らからないのは、全曲が「音数が少なく余白が大きい」の一点で貫かれているから。
日没の40分を、クラシックとボサノヴァで渡す
この日でいちばん難しい時間帯——外がちょうど暗くなり、フロアの空気が切り替わる枠を担当している。サティ「ジムノペディ 第1番」(認識が確定しなかったが18:23頃に鳴っている)とサラ・ブライトマンで静かに入り、マックス・リヒターによるヴィヴァルディ『四季』の再構築を 夏3 → 冬1 の順で。夏から冬へ切り替える並びで体感温度を先に下げてから夜に入る、という設計が明確に見える。
中盤の仕掛けがこの日の白眉。ナ・ユンソン「My Favorite Things」とケリー・クラークソン版「マイ・フェイバリット・シングス」を連続で回している。韓国のジャズシンガーによる解釈とクリスマス・アルバムのポップな解釈を並べて、同じ曲がどこまで別物になるかを聴かせる——DJにしかできない遊びで、40分の真ん中に置く度胸も込みで見事。
後半はボサノヴァを補助線にする。小野リサ「ワン・ノート・サンバ」(ジョビン)から高橋洋子 & 鷺巣詩郎「FLY ME TO THE MOON (Acid Bossa Version)」への接続は、ジャンルではなくリズムで繋いでいるので飛躍を感じさせない。パペットスンスン「とてと」で一度ゆるめ、最後は Hælos「Hear Me」でトリップホップの入口を開けて次の枠へ。クラシック・ジャズ・ボサ・アニメ・トリップホップを40分に詰めて破綻しないのは、曲ごとの温度を測って並べているから。
5曲だけ。腰を据えた夜の宣言
40分で5曲。1曲あたり8分近い配分は、この日でもっとも長尺に振った枠で、しかも中身が 1996年前後のトリップホップ本流という潔さ。
スニーカー・ピンプス「6 Underground」→ DJシャドウ「Midnight In a Perfect World」と繋いだ時点で、この日の夜が始まったことが誰にでも分かる。マッシヴ・アタック「Live With Me」——テリー・キャリアーの声が乗る2006年の曲——を挟むことで、前半に鳴っていた「Teardrop」と対になっているのも効いている。
最後は Glass Animals「Holiest」とマルティナ・トップリー・バード「I Still Feel」。トリッキー『Maxinquaye』の声で締めることで、90年代の本流から現行へ橋を架けたまま次の枠へ渡している。曲数を絞る勇気と、選んだ5曲の並び方だけで成立している枠。
40分21曲。この夜のギアチェンジ
1曲あたり平均2分弱、この日で唯一のクイックミックス。前枠までの長尺主義とは完全に逆の設計で、「ここで空気を変える」という役割を自覚しきっている。
ジブス、ネリー「ジレンマ」「My Place」、マライア、アシャンティ「Rock Wit U」、ジャネット・ジャクソン「ダズント・リアリー・マター」と2000年代R&Bの本丸を並べつつ、ジョマンダ「I Like It」で90sガラージを一発差し込み、KAYTRANADA「10%」「Intimidated」で現行へ橋を架ける。年代を行き来しながらテンポだけは落とさない。
締めが宇多田ヒカル「Addicted To You (UP-IN-HEAVEN MIX)」から「Automatic」。日本のR&B史の起点を、洋楽の並びと同じ地平で扱う手つきが気持ちいい。ちなみにこの枠は展開が速すぎて、曲認識が追いつかず記録に残らなかった曲がいちばん多い40分でもある——アッシャー、タミア「So Into You」、Leon Thomas III「MUTT」あたりが断片的に引っかかっている。
アジアと欧米を縫って、日本に着地させるトリ
リアーナ「We Ride」で前枠の熱をそのまま受け取り、スティーヴィー・ホアン、Mike Posner、サンダーキャット「Dragonball Durag」と繋いで現行R&B/ソウルへ重心を移す。前枠の速さを一度も止めずに、質感だけを入れ替えている。
セヴン・ストリーター、SZA「Kill Bill」、Amber Mark & DRAM で足場を固めてから、ザ・ウィークエンド「Out of Time」。亜蘭知子「Midnight Pretenders」(1983)をサンプリングしたこの曲を経由点にすることで、以降の日本回帰が理屈ではなく音で正当化される。テヨン feat. DEAN で韓国R&Bを通し、Magnetic North & Taiyo Na「Home:Word」というアジア系アメリカ人のヒップホップを挟んでから Nujabes「Kiss Of Life」へ。ディアスポラの視線がここで東京に着地する。
終盤はロバート・グラスパー & エリカ・バドゥ「Afro Blue」(モンゴ・サンタマリア〜コルトレーンの系譜)、DJ DECKSTREAM、J.A.M feat. ホセ・ジェイムズと、ジャズとヒップホップの結節点を3曲畳みかける。リアーナ & カニエ「FourFiveSeconds」で一度ひらいて、最後は椎名林檎「茎(STEM) ~大名遊ビ編~」。斎藤ネコによるオーケストラ編曲版を最終曲に選ぶのは、5時間かけて上げた温度を「演奏」で締めるという宣言に他ならない。トリを任される理由が、18曲で説明されている。
全員が同じ40分を与えられているのに、「その40分に何曲入れるか」で人格が出たのがこの日いちばん面白いところ。Sharada の5曲(1曲8分)と Saa の21曲(1曲2分弱)で4倍以上の開きがある。長尺で場所をつくる人、曲数で空気を動かす人、その両方が同じイベントの中で役割として噛み合っている。
そして全体を貫いているのが、チルを「静かな音楽」ではなく「時間の設計」として扱う姿勢。まだ明るい16時台はダブとポストロックの長尺で余白をつくり、日が落ちる18:20からの えるざ枠でクラシックとボサノヴァを通して体感温度を下げ、19時の Sharada でトリップホップに腰を据えて夜を宣言し、19:40 の Saa でパーティに振り切って、20:20 の Kuroyu がジャズとオーケストラで着地させる。自然光の変化に、音の重心がそのまま重なっている。
バトンの受け渡しも全枠で意識されている。青葉市子 → Café del Mar(静けさで繋ぐ)、Nala Sinephro → サティ(余白で繋ぐ)、Hælos → スニーカー・ピンプス(トリップホップで繋ぐ)、マルティナ・トップリー・バード → ジブス(ビートで繋ぐ)、宇多田ヒカル → リアーナ(R&Bで繋ぐ)。境目には必ず「両方の枠に属する曲」が置かれていて、7人ぶんの40分が1本の線として繋がっている。
もうひとつ全枠に共通しているのが、有名曲を避けてアルバム曲・別バージョン・セルフカバーを選ぶ判断。シニード・オコナーの『Universal Mother』収録曲、堀込泰行によるキリンジのセルフカバー、マックス・リヒターの2022年再録音、同じ「My Favorite Things」の2バージョン、椎名林檎のオーケストラ編曲版。「知っている曲の、知らない顔」で構成された5時間だった。